7.日本では昔は犬といえば雑種で、ポチやハチやコロといった名前が多かった。最近ではどうだろうか。私は300余の犬の名前を調べ記述してみたが、その命名方法は外国のは分からないが、日本の場合は大きなカテゴリーをあげるとなんとなく、音がよい、毛の色、体型、芸能人、スポーツ選手、お菓子、小説の主人公、母音が2つか3つのもの、テレビドラマの主人公やアニメ、性別の特徴のあるもの、花の名前がほとんどである。浜町と横浜山手と日本の有名人ではレビー・ストロースの方法は一つか二つにすぎない。 これから名をつける方はどの方法をとるのか楽しみである。
8.犬の名前 引用 丸谷才一『好きな背広』の中の「犬の名前」からの引用をすると「レビイー=ストロースが犬の名前のつけ方について論じているくだりで、 「犬につける名前は、第一に、飼主の属する文化にとって犬の名前のクラスの一つとわかるものでなければならない。第二に、何か混乱を生ずるもの(たとへば近所の犬と同じ名)では具合が悪い。第三に、飼主の好みに合っている名前でなければならない。そこで、ある犬の名は、犬の名前のクラス、そのなかで使ってかまはない名前のサブ・クラス、飼主の意図とみ、の三分野の交差において生ずる。(中略・)・・ それからまた、こんなことも書いてある。 「オーストラリアやアメリカ・インディアンのいくつかの部族は、犬に人間とおなじやうな固有名詞や親族呼称(弟とか、叔母とか)をつけるが、われわれは犬専用の名をつける。アゾール、メドール、スリュタン、フイドなどで、かういふのはほとんど芝息の人物の名である。それは日常生活で人間がつけている名前とは別の一系列をなしている。「われわれ」といふのは、たぶんフランス人、広く言ってもヨーロッパ人のことなんでせうが・・・」とある。 (注) レビー・ストロースは社会人類学者。人類学に構造主義を導入した。 我が家の場合はアメリカ・インディアンと同じ方法なのだと思う。「バッポ」という名を実は自分が研究対象としているタンザニアのダトーガ族の好きな叔母さんの名をとったのである。 前述の本で知ったジェイムズ・サーバーの随筆集『サーバーのイヌ・いぬ・犬』を見ると芝居の人物の名は見当たらない。サーバーはこれまで四十頭以上の犬を飼ったことがある愛犬家なのに、かれがこれまでおもしろいと思った名前は次の四つであるとして、 「レイン(雨)という農家の犬、マルコ・ポーロという放浪癖のあるエアデールテリア、走行中の車や二階の窓から飛び降りるのが好きだったブローディ(ブルックリン橋から河え飛び込んだとして有名になった男)というめすのブルテリア、ダリエン(パナマ地峡の旧称)」 をあげている。 そして、サーバーは犬の名前はバイオリンの音域ぐらいに幅が広いとして、次の名前をあげている。 スポット(ぶち)、スポート(いい子)、レックス(王)、ブラウニー(茶色)などの単純明快なものから、凝りに凝ったダルンドルフ・ブッツェルホルストのプリンス・ルドルフ・へルテンベルク・グラッハイムなどをあげていて、こういう人たちはみなほかの点ではごく正常な生活順応者であるらしい。こういう単純タイプと凝り凝りタイプのほかに、ひねくれタイプと甘えタイプがある。戦時中のもっとも人気のあったひねくれタイプは、ムッソリーニやトージョーやアドルフがあった。甘えタイプはバブル(ちょこまか)、ボグル(まごまご)、スパークル(きりきあら)、トウィンクル(ぴかぴか)、ドゥードル(のらのら)、パフィ(ころころ)、ラバム(かわいい子)、スウィータム(かわいい子)、イチーピチー(おちびちやん)、ベチーバイバイ(またねべチー)、シュガーキン(お砂糖ちやん)などと呼んでいる。甘えタイプには特別の項目あり、ここでは対句タイプと名づけることにする。この人たちは二頭の犬を飼っていてピター(がたん)とバター(ばたん)、ウィリー(いやでも)とニリー(おうでも)、ヘルター(あわて)とスケルター(ふためき)、ナンビー(めそめそ)とバンビー(ねちねち)、ハガー(ひっそり)とマガー(こっそり)、はてはウィシー(くだらん)とウォシー(つまらん)や、アプシー(どっこい)とデイー(よいしょ)、フィッツ(びっくり)とスターツ(ぎょうてん)、フェッチ(取って来い)とキャリー(もってこい)、プロ(賛成)とコニー(反対)などと呼んでいる。それからまたミステリー・タイプというのがある。その派のつけるのはオクトーバー(十月)、べネットのアーント(べネットのおばさん)、スリー・フィフティーン(三百十五)、ドック・ノウズ(先生はご存知)、チューズデイ(火曜日)、ホーム・フライド(ポテトチップス)、オープス38(作品三十八)、アースク・レスリー(レスリーにきけ)、さらにサンクス・フォー・ホーム・ラン・エミル(ホームランありがとうエミルというのまである。」 私にはそれほどミステリーという感じがしない。 さて、世の著名人はどんな名前を犬につけているのだろうか。私のダラスの住む友人メイビスにインターネットで検索してもらったものをあげる。
「犬につける名前は、第一に、飼主の属する文化にとって犬の名前のクラスの一つとわかるものでなければならない。第二に、何か混乱を生ずるもの(たとへば近所の犬と同じ名)では具合が悪い。第三に、飼主の好みに合っている名前でなければならない。そこで、ある犬の名は、犬の名前のクラス、そのなかで使ってかまはない名前のサブ・クラス、飼主の意図とみ、の三分野の交差において生ずる。(中略・)・・
「オーストラリアやアメリカ・インディアンのいくつかの部族は、犬に人間とおなじやうな固有名詞や親族呼称(弟とか、叔母とか)をつけるが、われわれは犬専用の名をつける。アゾール、メドール、スリュタン、フイドなどで、かういふのはほとんど芝息の人物の名である。それは日常生活で人間がつけている名前とは別の一系列をなしている。「われわれ」といふのは、たぶんフランス人、広く言ってもヨーロッパ人のことなんでせうが・・・」とある。 (注) レビー・ストロースは社会人類学者。人類学に構造主義を導入した。
「レイン(雨)という農家の犬、マルコ・ポーロという放浪癖のあるエアデールテリア、走行中の車や二階の窓から飛び降りるのが好きだったブローディ(ブルックリン橋から河え飛び込んだとして有名になった男)というめすのブルテリア、ダリエン(パナマ地峡の旧称)」
スポット(ぶち)、スポート(いい子)、レックス(王)、ブラウニー(茶色)などの単純明快なものから、凝りに凝ったダルンドルフ・ブッツェルホルストのプリンス・ルドルフ・へルテンベルク・グラッハイムなどをあげていて、こういう人たちはみなほかの点ではごく正常な生活順応者であるらしい。こういう単純タイプと凝り凝りタイプのほかに、ひねくれタイプと甘えタイプがある。戦時中のもっとも人気のあったひねくれタイプは、ムッソリーニやトージョーやアドルフがあった。甘えタイプはバブル(ちょこまか)、ボグル(まごまご)、スパークル(きりきあら)、トウィンクル(ぴかぴか)、ドゥードル(のらのら)、パフィ(ころころ)、ラバム(かわいい子)、スウィータム(かわいい子)、イチーピチー(おちびちやん)、ベチーバイバイ(またねべチー)、シュガーキン(お砂糖ちやん)などと呼んでいる。甘えタイプには特別の項目あり、ここでは対句タイプと名づけることにする。この人たちは二頭の犬を飼っていてピター(がたん)とバター(ばたん)、ウィリー(いやでも)とニリー(おうでも)、ヘルター(あわて)とスケルター(ふためき)、ナンビー(めそめそ)とバンビー(ねちねち)、ハガー(ひっそり)とマガー(こっそり)、はてはウィシー(くだらん)とウォシー(つまらん)や、アプシー(どっこい)とデイー(よいしょ)、フィッツ(びっくり)とスターツ(ぎょうてん)、フェッチ(取って来い)とキャリー(もってこい)、プロ(賛成)とコニー(反対)などと呼んでいる。それからまたミステリー・タイプというのがある。その派のつけるのはオクトーバー(十月)、べネットのアーント(べネットのおばさん)、スリー・フィフティーン(三百十五)、ドック・ノウズ(先生はご存知)、チューズデイ(火曜日)、ホーム・フライド(ポテトチップス)、オープス38(作品三十八)、アースク・レスリー(レスリーにきけ)、さらにサンクス・フォー・ホーム・ラン・エミル(ホームランありがとうエミルというのまである。」
9.終わりに 最近、小林章夫の『物語 イギリス人』を読んだ。中にイギリス人の犬についての注目すべき文章に出会ったので引用する。 「一番おもしろいのは飼う犬で、上流階級は概して毛足の長い犬、たとえばキング・チャールス・スパニエルやスプリンガー・スパニエル、ダックスフントなどを飼い、ラブラドルは黄色より黒のほうが上流階級的とされる。これに対して上層中産階級はダルメシアン、イングリッシュ・セッター、ゴールデン・レトリバーなどを飼い、下の階層になると雑種が増えることになる。飼い犬で階層の見分けがつくというのは、なんともすごい話である」 この記述は日本でもあながち否定は出来ない。鎌倉にいたとき公園に大型犬を多く見たし、高級住宅街などでもやはりそうである。最近のペットブームは異様でさえあるが、一般にはやはりミニチュアダックスフンドやトイプードルやチワワが圧倒的である。しかし、愉快なのは広大な屋敷に住むチャーチルや吉田茂が居室に小型犬を飼っていることである。 最後に日本で一番古い犬の名前を記した谷口研吾「犬の日本史」を引用して終わりとする。 「犬は人類がもっともはやく家畜化した動物であり、人類のもっとも古い友といわれるゆえんである。」 「地球上でもっとも古い家犬(いえいぬ)の遺物は(骨・歯)は、アラスカのオールドクロウ川付近で発見されたもので、最低でも二万年前にさかのぼるという。ついでイランのバレガウラの岩陰で出土したものは約一万二〇〇〇年前、アメリカのアイダホ州ジャガー洞窟で発見された大小二種の遭物は一万〜一万七〇〇〇年前のものとされており、パレスチナでは一万一〇〇〇年前、ドイツでも一万一〇〇〇年前と推定される遺物が発見されている。」 飼い犬のことを記した最古のものは『日本書紀』垂仁天皇八十七年条の石上(いそのかみ)神宮について述べた部分に、昔、丹波国(京都府と兵庫県の一部)にみかそという男がおり、足往(あゆき、足が速いことによる名だろう)という犬を飼っていた。その犬がムジナという山の獣を食い殺したところ、その獣の腹に八尺(やさか)にの勾玉があった。その玉は、今は石上神宮にある。 平成十七年九月
「犬は人類がもっともはやく家畜化した動物であり、人類のもっとも古い友といわれるゆえんである。」 「地球上でもっとも古い家犬(いえいぬ)の遺物は(骨・歯)は、アラスカのオールドクロウ川付近で発見されたもので、最低でも二万年前にさかのぼるという。ついでイランのバレガウラの岩陰で出土したものは約一万二〇〇〇年前、アメリカのアイダホ州ジャガー洞窟で発見された大小二種の遭物は一万〜一万七〇〇〇年前のものとされており、パレスチナでは一万一〇〇〇年前、ドイツでも一万一〇〇〇年前と推定される遺物が発見されている。」