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るるべぇとリリィ


バッポ  家の中に何か生き物がいないと淋しい。十四年一緒に暮らした愛犬バッポが亡くなって四年。もう犬を飼えない体なので、何がいいかを考えた。一年前「そうだ、小鳥にしよう」と高島屋のペットコーナーに出かけた。
 三月のことで余り種類は多くなかった。文鳥か錦花鳥か迷ったが、後者にした。店の人が、オスは囀るし綺麗とのおすすめで、それに決める。キンカチョウはインドネシア東部とオーストラリアに広く分布している。このお店のものはインドネシア産とのこと。錦花鳥という名前どおり華麗な鳥である。
 『原色飼鳥大図鑑』によると「形態は頭部は灰色で、頬に紅褐色斑があり、目の下方、嘴脇にも縦型の小黒斑がある。背部は黒灰色で、腰は白く「尾は黒色に白横斑がある。腮から胸にかけ、白と黒で横縞が入り、胸の中央部は黒い。腹部は白く、脇腹は茶色に白点の模様が入る。嘴は紅色で、脚も淡紅色。」と記載されている。
 種類は並キンカチョウ、全身が白色の白キンカチョウ、古代キンカチョウがある。私が買ったのは並キンカチョウである。初めは囀らなくて静かだった。鳥は「おいで」といっても来るわけでなく、意思は通じないし淋しいと思った。しかし三、四日するとチィチィと鳴き出した。美しい鳴き声である。オスは色調が地味目なので「るるべぇ」という名にした。名を呼ぶとチィチィと反応し、首を左右に動かし可愛い。くるくると良く動く。私がそばの椅子に座っていると頭の上をぐるっと飛ぶ。時折水浴びもしている。
 一羽では淋しいだろうと去年五月に水色の椅麗なセキセイインコを飼うことにした。メスで「リリィ」と名づける。セキセイインコはオウム科の鳥で、オーストラリアの大部分に分布している。前述の図鑑によると「ヨーロッパに輸入されたのは一八四〇年であった。ヨーロッパ人に非常に愛されて、特にイギリス人はこの鳥を好んで飼った。日本にこの鳥が初めてきたのは、明治三十七、八年(一九〇四、五年)ごろであった。戦後になって、イギリスから改良が加えられた品種、すなわち高級セキセイとよぶものが輸入され、羽色の改良が著しく進み、また芸物セキセイとよぶ羽毛の変わりものが固定され、観賞用の鳥の王座を占めるに至っている。現在では、セキしイインコを並セキセイとよぶ原種に近い色彩のものと、高級セキセイとよぶ改良の程度がさらに進んだものとに大別している。そして、そのどちらにも芸物が生じている。」種類はざっと十種はある。私の求めたのは梵天ブルーセキセイ(ケンソン系)である。全体にブルーで、頭部とあごは黄色、頬には黒点があり、羽に波型が入っている。背はターコイズブルーで驚くほど美しい。中央の尾羽は長く緑がかっている。
 別々の籠にすると、網ごしに二羽がしきりに鳴き合っているので、一週間後に戸口を開けておいたら、いつの間にか二羽が一緒になっている。お互いに嘴をつつき合い、かゆい所をつつき合ったりしている。種類がちがっても、こんなに仲良く出来るのだと面白く眺めていた。二週間もすると、リリィは威張るようになり、るるべぇが餌を食べていると横から追い立てているし、首の毛を抜いている。体長は二十センチもある。リリィの方が大きく、るるべぇが可哀相なので、元のように別々にし、るるべぇだけは戸口を開けておき、自由にしてやる。
バッポ  るるべぇは昼間は籠の中のわらの巣に出たり入ったり、ブランコで遊んだり、上から下げてあるリボンをくわえて引っ張ったりしている。また殆どリリィの籠の上に止まっている。寝る時は巣の中に入っている。リリィの方は殆ど止まり木でじっとしている。つるしてあるリボンは時々引っ張って切れかかっている。不思議なのはるるべえの糞は白いのに、リリィのは黒に一寸白がついている。同じエサを食べているのにと、考えてしまう。寝る時もリリィは止まり木でじっとしている。疲れるだろうと気になる。でも時々片足を休めている。わらの巣はもうむしってぼろぼろになっている。
 今年一月、朝私が起きてダイニング・キッチンのテーブルに来ると、五メートル離れた籠からるるべぇは飛んで来るようになった。目は二、三ミリ位なのにちゃんと見えるのだ。俄然可愛さが増した。それに外から帰って玄関に入るとチィチィと鳴くのである。私を感じてくれる者がいるのはとても嬉しい。
 二度、「あらっ」と思うことがあった。いつの間にかリリイがるるべぇの籠に入っているのである。インコは自分で戸口をあけてしまう。「いけません」とリリイをしかり、可哀相だが離してしまう。
 三月も中旬になるとよく囀る。やはり春を感じるのだろう。北鎌倉の明月谷にいた時は、いろいろの鳥が庭に来たし、それらの声を聞いた。ウグイスは三月八日頃毎年鳴き出していた。今下町にいるとそれらが言いようもなく懐かしい。
 五月になり、リリィが籠にしがみついて余りに出たがっているので、戸口を開けてあげると、すぐるるべぇのところに行く。しばらく様子を見ているとなつかしそうにキスしているのだ。これは自由にしてあげようと決める。リリィの籠にもブランコとおもちゃを入れた。一週間はじっとにらんでいたが、あとは逆上がりや懸垂をしたり、よく遊んでいる。すっかり二羽はおしどり夫婦のように一緒にいる。リリイはその鋭い嘴でリボンの先を籠の先に小間結びにしたものを解いてしまうのである。また藁の大きい巣を一年たたないうちに嘴で突付き、底だけを残すだけにした。インコの方が賢いようだが気が強い。
 犬はこちらが何か食べていると、じっと見つめて欲しそうにするので、つい食べ物を与えてしまうが、鳥はその点、気を使う心配はないので良い。小鳥はエサを買って与えるだけで楽である。もちろん、水や籠のお掃除は毎日している。エサは粟を与えている。一袋二百三十一円のエサを高島屋に買いに行くのである。

 鳥の動きは本当に愛らしく、自然に笑みがこぼれる。一日見ていても飽きない。また、こんな小さい動物でも意思が通じてくるのはとても嬉しい。朝六時半ともなると、るるべぇはチィチィと鳴き出し、病持ちの独居老人に「さぁ、起きよう」という気を起こさせてくれる良き相棒である。そして、「おはよう」と声をかけて、私の一日は始まるのである。
                            平成十六年五月十日

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